八百比丘尼伝説とは?
八百比丘尼(はっぴゃくびくに/やおびくに)は、八百年生きたとされる女性の話です。
福井県若狭が発祥の地とされていて、不思議なことに、全国にその伝説が広がっています。
栃木県真名子の八百比丘尼伝説
栃木県栃木市西方町真名子(にしかたまち まなご)にも、八百比丘尼伝説があります。真名子では、「八百比丘尼」と書きながら、「おびくに」と読み、「おびくにさま」と呼んでいます。「八百」を「お」と読むわけではなく、「比丘尼」に敬称の「お」を付けた呼び方です。
小松義邦氏と『真名子の里 伝説八百比丘尼を追う』
栃木市在住の郷土史家の小松義邦氏が、「真名子の里『伝説八百比丘尼』を追う」というタイトルの私家版書籍を、2024年9月(令和6年)に発行しました。

1998年の『伝説 八百比丘尼』刊行と研究の始まり
小松義邦氏は、1998年(平成10年)に真名子で開催された「第2回八百比丘尼サミット」のために、当時の「西方町」にて作成・刊行された書籍「伝説 八百比丘尼」作成の中心メンバーの一人でした。この書籍は、その当時に地元の旧家より発見された一次資料「五代尊 八百比丘尼畧縁起」という古文書を中心に、真名子の八百比丘尼伝説を読みやすく解説したものです。その後の八百比丘尼研究の論文などにも引用される価値ある内容となっていました。
新刊『真名子の里 伝説八百比丘尼を追う』の内容
その刊行から26年を経て、2024年9月(令和6年)に発行されたのが、「真名子の里『伝説 八百比丘尼』を追う」です。1998年の冊子『伝説 八百比丘尼』のその後を追い続けてきた内容となっています。
読み物として面白いだけでなく、八百比丘尼伝説の研究の書として、とても意味あるものとなっています。また、真名子の人々にとっては、地元のみならず近隣の人々が「おびくにさま」を大切にして救いを求めて拝んでいた、その理由を知ることができる、大切な一冊です。
章ごとの内容
本書は下記の内容となっています。
第1章の概要:八百比丘尼研究の誕生
1998年(H10年)に西方町で開催された「第三回八百比丘尼サミット」をきっかけに、西方町で八百比丘尼伝説の研究がはじまった様子が書かれています。小松義邦氏はまさに当事者なので、その際のさまざまな葛藤や興奮がリアルに伝わる記述となっています。
第2章の概要:伴信友と八百比丘尼伝説
若狭国誌という書物に伴信友という文筆家が書き入れをしたものがあり、少部数で出版されてもいるのですが、そこに、真名子の八百比丘尼は「十七人の夫を持った」と書かれていて、何人もの研究者がそれもひとつの伝説として記してきました。地元の伝説とは異なる話であることに疑問を持った小松義邦氏は、実際の古書を入手して丹念にその記述を調べ上げ、これまで誰もたどり着かなかった驚くべき新事実に、たどり着いています。
伴信友書入に決着をつけたあと、この章の後半では、真名子の八百比丘尼伝説がどういうものであるかが書かれます。古文書「五代尊八百比丘尼畧縁起」「真名古旧傳夢物語」と「勧進帳」の紹介と、伝説がこれまでどう取り上げられてきたかなどの記述となっています。
第3章の概要:会津金川寺の八百比丘尼堂
小松義邦氏が2023年(R5年)に御開帳に訪れた風景から始まって、会津金川寺の八百比丘尼伝説について、紹介し、真名子の伝説との類似点と相違点を探求します。
第4章の概要:八百比丘尼伝説と縁起販売説
第4章は「八百比丘尼の出現と『寺社縁起』の販売」。富樫晃氏が発表している、八百比丘尼伝説の全国伝播は若狭の縁起販売事業の結果と考えられるという、「画期的かつ斬新な切り口」について書いています。もしも本当にそうであるならば、全国伝播の合点がゆく、という視点での記述となっています。
第5章の概要:八百比丘尼と関連するキーワード解説
「キーワード解説として、録事法眼(録事尊)/庚申信仰/五大尊/五代尊/四道将軍についての解説となっています。
第6章の概要:地福寺と八百比丘尼像
真名子の八百比丘尼伝説発祥のお寺である地福寺の歴史をひもとき、略縁起と縁起販売説との関係を探ります。後半の「比丘尼像」の箇所では、真名子に祀られている比丘尼像について、伝説にあるように、本当に若狭の八百比丘尼像とペアのものとして作られたのか、真相に迫ります。
第7章の概要:真名子の里の八百比丘尼様
終章である第7章で、昔、近隣からも多くの女性が救いを求めて拝みにきた真名子のおびくにさまについて、なぜそれほどに崇められていたのかを、小松義邦氏ならではの視座で、語っています。
読んでいて、さまざまな個所でワクワクさせられ、エモーショナルな感情になり、終章では、歴史の中のあの頃の真名子に、優しい気持ちで立っていました。
ぜひ読んでいただきたい一冊です。
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第二部:貴重な史料と写真資料
下記の価値ある内容が掲載されています。
●五代尊八百比丘尼畧縁起・勧進帳 口語訳
●五代尊八百比丘尼畧縁起・勧進帳 読み下し文
●真名子旧伝夢物語 読み下し文
●洞雲寺 八百比丘尼尊御縁起和讃 & 略和讃
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西方町の写真家・古澤悦夫氏(元西方町長)撮影のカラー写真も、多数掲載されています。八百比丘尼堂の天井画をきれいなカラー写真で見ることができます。


刊行情報
2024年9月(令和6年)
A5版・200P
著者/小松義邦
発行/小松義邦
こちらの冊子は、栃木市の各図書館でご覧いただくことができます。
また、在庫があるので(僅少)、お買い求めいただけます。800円+送料210円 です。
小松義邦氏 略歴
栃木市西方町の郷土史家。
研究対象/皆川広照・皆川氏、真名子の八百比丘尼伝説、西方町の歴史・西方氏ほか
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栃木市編入前の西方町にて、町教育員会からの委嘱で1998年(H10年)に西方町郷土史研究会を発足し、史料集めや古文書解読に励む。2011年(H23年)発行の「西方町史」編さん時には一部の執筆を担当し、その後の町発行の「西方町の民俗」の編集も担当するなど、行政から信頼を寄せられる。研究成果を地元に残そうと、私家版として多数の冊子を発行し、地域の図書館への寄贈や、一部の書籍は地元小中学校の生徒に無償での配布なども実施。栃木市皆川町の「皆川地区街づくり協議会 歴史文化部会」からの委託を受けて「皆川広照伝」を復刻。郷土史を研究し、冊子を発行し続けている。